倍音キャスト Overtone Flycasting


ロッドを曲げて反発させるとき、それは片持ち梁の「振動」と捉えることが出来る。
振動には振幅と振動周期という要素がある。振動周期は物体固有のものであり固有振動数と呼ばれる。
ところが同じ物体の振動でもその形態はひとつとは限らない。片持ち梁としての振動にも二倍の振動数を発生させることも出来る別のモードがある。ロッドを曲げずにコンと叩いても振動は起きるがそれはまたさらに別の振動モードであるがこれは関係ない。
楽器に詳しい人なら気づくはずであるが同じ弦の長さや同じパイプ長の管楽器でも振動数の違う音を発する。
同じ発音体のオクターブの違う音を倍音と言う。ギターならハーモニクス奏法であるしトランペットなら唇を引き締めて低いドと高いドを吹き分けるのがそれである。
この「倍音」を発生させるがごとくロッドの振動数が二倍になるように曲げて反発復元させる方法がある。
「倍音キャスト」とでも名付けてみようか。
この倍音キャストは振幅を小さく抑えられロッドの自重による慣性の作用が小さくベナベナとしたバンブーロッドでもパリッとしたショートロッドのように軽やかにシャープなキャスティングができる。ロッドチップの曲がりすぎを気にせず強く振ってビシッと止めても安定するのでドリフトなしでもループは乱れずタイトである。
ならばどのような振り方をするのか?
じつはこれはテーパーを持つ竿ならできて当たり前とも言える。
ロッドのバットを優位に曲げるようにしてその曲げを強くしていくといつしか二倍の振動数に達する。
これはテーパーのついたものの宿命的とも言える特性である。
リストを強くダウンさせてロッドを止めるとロッドチップが安定してタイトなループができることを実践体験したキャスターは珍しくないと思う。
しかしこのようなロッド操作のためには強いリストと軽くてそれなりのアクションのロッドが必要である。
それにいつも強めのキャストばかりをするわけでもないので実戦的なソフトなキャスティングではこのスタイルで通すわけにもいかない。
倍音キャストは近距離でもソフトなキャストでもできる。
そのためにはキャスティングの基本に加えて倍音のための意識が大切である。
ロッドを「振る」という意識を取り去るほうがよい。ロッドのバットからチップにかけて軸方向に押し出すような感覚である。最初は短く歯切れよく押し出す感覚の方が解りやすい。ロッドグリップはしっかり握って手のひらの中でぐらつかないようにする。タイミングがずれるとテーリングになったりする。無理にバットから曲げなくても曲がりやすいところから先へと力が伝わるような感覚でよい。感覚が掴めてきたら軽くゆっくりでもできるようにする。ロッドはほとんど曲がっている感じがしなくてよい。
最初はフォワードだけを意識してよいがバックキャストでもまったく同じことであり両方出来なければ完成ではない。
ホールは常にした方がよくロッドに曲がりを与えるトリガーにもなる。
ごく稀にこのキャストがしにくいロッドがある。
ロッドテーパーが滑らかでない極端にチップが弱いとかロッドの途中が弱いものである。
そうでなければファーストでもスローでもできる。バットが強いものは無理に曲げる必要はなく曲がりやすい部分だけを使う感じでよい。どういうタイプが使いやすいかはだんだん解ってくる。
ジョイントの柔軟性が低くテーパーが滑らかでないものはよい感触が得られないことがある。
ロッドが反発するときに細かな余分なバイブレーションが発生して手に伝わってくるその感触が気になるようになるかもしれない。言ってみればこれはノイズである。ノイズにはうるさいオーディオマニアのようなキャスターがいるかもしれない。そこまで追求するとフライロッドはまさに楽器である。
これはフライロッド作りにおいて元々追求されていた一要素だったかも知れないのだが倍音キャストを意識したロッド作りがひとつの明確な指標となればうれしく思う。
フライロッド作りが楽器作りに通じたときタックルはインスツルメントとなるかもしれない。
2006年8月1日(火) 16時38分

 



楽器の弦の倍音

片持ち梁の二次振動モード